| Admin | Write | Comment |
プロフィール
HN:
リーベン
性別:
非公開
自己紹介:
リーベンによる漫画とか映画とか小説の感想や創作。日々のつれづれ。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[12/19 リーベン]
[12/15 yuu]
[08/10 リーベン]
[08/10 秋野]
[08/10 折易]
最新記事
(11/20)
カウンター
ブログ内検索
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

青い。
まずそう思った。
眼前に広がった青色が、空のいろだと理解するのにしばらくかかった。
高い空にはもくもくと綿をちぎったような白い雲が緩慢に流れている。ファロムが今まで行って来た、どの惑星とも感じが違う。どこがどうとは言えないが。
青い芝に、からっとした日差しがふりそそぐ。ふと、ファロムの後ろで声が聞こえた。あわてて近くに生えている太い木の幹に隠れた。

「あ、ママだ」
ファロムの方に向かって、ダニールともうひとり人間が歩いてくる。強い日差しを避けるように木陰に入ると、男はほっと息を吐いた。ファロムはまじまじとその男を観察した。茶色の少しウェーブがかった髪。目尻と口元には皺。歳の頃は分からなかったが、きっとおじさんと呼ばれるくらいの年齢なんだろうな。とファロムはなんとなく思った。
こっちが、じろじろと見ていても、彼はまったくこちらに気づく様子は無い。しかしそれは当たり前なんだと、ファロムは思い出した。これはデータであり過去のダニールの記憶なんだから。
とうのダニールは、今より表情がぎこちなく、ロボットらしい風である。青白い顔に、色の薄い髪をなでつけている。つるっとした、能のような顔で男を見ている。と、男がここちよい低い声で喋り始めた。
「地球に帰りたくないな…」
「いえ、あなたを無事に地球まで送り届けるのが、私の任務です」
木の幹に体を預け、腰を下ろした男に向かって、直立不動のままダニールは答えた。
「なんだ。追い出そうって言うんだな」
男が、歳に似合わずすねたような声を出す。
「そんなことは、言っておりません」
広い草原には、他に動くものの影は見えない。ふいに訪れた沈黙に、遠慮がちに風が通り過ぎた。
「地球に帰ったら、お前には会えなくなる」
と男はすねたように言った。ダニールは、ぽかんとしたような顔になる。
「なんだ。寂しいとか言ってくれないのか」
男は、そんなダニールの顔を見た。男の位置ではダニールの顔は影になってよく見えない。そばに寄るように指示すると、ようやくダニールは腰を落ち着けた。
「寂しいというような、人間のような感情は持っていません」
「うん。お前はいつもそういって、ごまかすんだよなぁ」
「ロボットは人間をごまかしたりしません」
ダニールはロボット全般を代表するように答えた。
「それに、あなたには地球でやるべき仕事が残っているじゃないですか」
「地球人による、宇宙進出ね…さてうまくいくか。気の長い話しだ」
「ファストルフ博士が、今回の事件解決の功績に政府と掛け合ってくれるとおっしゃっていましたが。なにか不安なんでしょうか?」

木立に隠れているファロムには、なにがなんだかよくわからない。それでもなんとなく会話を聞いていると、ここはダニールの故郷の惑星オーロラであり、男は何かの事件解決の為に地球から呼ばれた刑事であり、その事件解決のパートナーはダニールだという事が分かった。
私には、すぐに地球に帰りたいとばかり思っていました。とダニールは男に言った。
「だからこそ、すばやく宇宙船の手配もいたしましたのに…」
鎖の付いた時計を取り出して、何とはなしに時間を確かめた。青い空色の石で美しく装飾された銀時計だ。と、男が時計に気がついた。
「あ、それ」
ダニールは男に時計をさしだした。男はそれを受け取ると、大切に使っているみたいだな。とつぶやいた。
「ええ。人から贈り物を貰ったのは、はじめてです」
「自分で買った訳じゃないんだがな。最初の事件の、功績を認められて貰ったものだから、お前のものでもある訳だ」
そうはいっても、わざとダニールの瞳と同じ、空色の石を使ったものを選んだということは、初めからダニールへの感謝の気持ちを込めた贈り物として考えていたという理由があるのだが。
「いえ、あなたから貰った事が重要なのです」
「はは。嬉しいな」
男は軽快に笑った。ダニールは首を傾げる。
「やっぱり、心はあるじゃないか」
と、男は言った。そして立ち上がると、「桜の木」と言った。
ダニールは、ああ。と相づちを打つ。
「桜の木の約束がありましたね」

「ずっと先でまた会えるか」

振り向いた男に、ダニールは初めて本当に優しい笑顔をみせた。
「これから地球人が宇宙進出して、スペーサーも地球産まれも境界はなくなって、ロボットとも共に生きられるようになって、そしたら迎えに行くよ。大切な友達をさ」
「…はい」
雲が動き、日に当たってダニールの手元で、青い石が光った。

拍手[0回]

PR
ファロムにはよく分からなかった。
そもそもなんで、ママは2万年も人間に肩入れするんだろう?
ダニールはファロムに、人間のよさをとくとくと語るが、その人生を聞いていると、どう考えても辛く苦しい事が多い。それなのにダニールが語る人生は、陰惨さを感じさせない。もしかして、ママは辛い事を辛いと感じないように設計されているんだろうか。などとファロムは考えてしまう。
そして、自分の事に対してはなにも執着しない母が、耳たぶをそっと触る時、すこし柔らかい顔になることに気がついた。そこには、ダニールの眼とまったく同じいろの小さい石が輝いていた。

***

月での一日は単調なものである。外部との交流が根絶しているため、それは仕方のない事だ。しかし、そんな穴蔵生活を、ファロムは故郷に居た時はずっとして来たのだし、なにより色々な事を覚えるのが楽しかったので、この生活に不満は無かった。
一方ダニールは、全宇宙に張り巡らされたネットワークのおかげで、こんな所に居ながらも、銀河帝国の動向を知る事が出来た。今もダニールは、ターミナス各地の銀河帝国で起こった出来事に関心を向けている。ファロムは、自室で静かにマシンを操るダニールをみて、ひとりで勉強部屋へと向かった。本当は、一緒に付いて来てもらいたかったのだが、なんだか悪いような気がした。

勉強部屋には、ダニールのバックアップデータがある。ばかでかいスーパーコンピュータと、閲覧用の機材が設置している。薄暗い部屋に入ると、自動で電気がついた。マシンは熱に弱い為、部屋には冷房がかけられている。すこし寒い。
肘掛けと背もたれの付いた大きなイスの上部に、特殊なヘルメットがアームに吊るしてある。機能面だけを重視したような、無骨なイスに少女はよじ上る。電源を付けると、マシンが低い音を立てて起動した。ぐっと、ヘルメットが、少女の頭上まで下りて来た。ファロムはそれを受け取ると、具合のいい位置に取り付けた。

ここは図書館のようなもので、サーバに検索をかけると画像と音声を使ったデータを呼び出し、閲覧することができる。メニューを開くと、ドングリ眼の金色の滑らかな長い髪をした女性のホログラムが出てきた。昨日の履歴を見ながら、今日はどこを読もうかと、ランダムにトピックスを検索する。ファロムは、歴史が好きだったので、そこを重点的に項目を呼び出させた。
文化や歴史は、科学や数学といった、単純にある事項を覚えるだけではなく、そこに生きていた人々のドラマがあっておもしろいから好きだった。
ずらずらと頭の中に流れる文字列を眺めていると違和感を感じた。何かが隠されている気がしたのだ。それこそ、感のようなものだったが、ファロムはその正体を見極めたくなった。

***

ああ、確かにそうか。
それは2万年まえの記事だ。そしてそれはダニールの記事でもあった。確かに、彼のバックアップデータならば、彼自身についても書かれていないとおかしい。だが、
「そのデータはマスターの権限により、閲覧出来ません」
ナビゲーションシステムは事務的にそう言った。シールドがかかっているのか。
「そんな事言われたって、私はママに自由にこれを見ていいって言われているのよ」
ファロムは、反論した。
「そのデータはマスターの権限により、閲覧出来ません」
「だーかーらー、そのマスターに許可貰ってんのー」
ファロムは、ぶーぶーと不満を漏らす。
義務として、この図書館にデータを入れつつも、見られたくない親の秘密とは一体なんだろう? 幸い、ダニールは他の用事にかかりつけになっている。なんだか、面白そうじゃ無いか。
少女はひと呼吸置くと、シールド解除にとりかかった。
「もう、あなどんないでね。ママ」

人の心が読めるファロムに、隠し事は通用しない。だから、ダニールは自分を育てたら死ぬつもりだということも知っていた。バージョンアップを重ねた陽電子頭脳だったが、これ以上容量を増やす事は出来ないらしい。そうは言っても、また新しい技術を開発すればいいとファロムは思っていた。だからこれは人で言う、老化と疲労ということだろうか?
2万年。どれだけ長い月日なのか。うら若い少女には、途方も付かない。
ファロムは必要以上に自分に能力がある事を隠していた。彼女が、成長を終えたとダニールに感づかれたくないからだ。そうしたら、今のこの生活も終わってしまう。
「んーセキュリティレベルの問題かなー?」
等と言いながら、ファロムは慣れた手つきでデータにちょっかいをかける。いいかげんに開けなさい。と念じると。
「パスワードを入力してください」
突然プログラムは言った。
パスワードなんてもちろん知らない。けれど、もしかしたら…ダニールがいつも、心の奥底で思い描いている言葉があった。ファロムにはよく分からない言葉だったけれど。ものは試しと、ファロムは言った。
「ふれんどいらいじゃ」
イメージプログラムが起動した。とたん立体映像が電脳空間に広がった。

拍手[0回]

性別は、異星人が勝手に付けたものだ。
ファロムは、連れて来られた宇宙船の中で、多数決によって「彼女」と決定された。だから、本当はファロムは「彼女」でもないし、「彼」でもない。それは、ソラリア人が人との直接の接触をタブーにしてきたことに由来する。
人と会う事がタブーであっても、子孫繁栄をおこなわなければ種として生き残れない。だから、彼らの文化では、夫婦と言うのは汚らわしい関係だった。やがて彼らは、生殖を自分一人だけで行えば良い。という、あまりにも単純な結論を出した。そして、科学技術によって、もっとも自然な形で自分のコピーが出来るように肉体改造をしたのだ。子供を作る事も、作らせる事も出来る体。半陰陽。だから、ファロムは「彼女」であって「彼」でもある。
しかし無性別というならば、それはこのダニールというロボットにも当てはまる。といっても、ファロムの体のように、「どちらも付いている」のではなく、パーツの入れ替えが可能な中世的性質を持っているということだが。そして現に、「彼」は、「彼女」であった事がある。
さて、ファロムの世界では、半陰陽こそが完璧な人間であり、どちらかの属性しか持たないものは出来損ないだと教育されて来た。しかし、ファロムはここに来て、その認識が一般的でない事をダニールから学んだ。しかしダニールとて、現在のボディを基準からはずせば、元来男女どちらでもないのだ。その決定権は従うべき主人、人間にある。これに、ファロムは母親を選択した。ダニールに、月までの渡航に同乗していた女性のような役割を演じて欲しかったからである。
そしてもうひとつ理由があるとすれば———。

「そういえばママの娘って、どんな子だったの?」
ダニールは、ファロムにものを食べながら喋らないように。とやんわりと注意をすると、
「ドースの事かい」
と言った。
ドース・ウィナビリは、ダニールが制作したヒューマンフォームロボットである。ダニールが惑星トランターでデマーゼルという名を使い、宰相をしていた頃、彼の手助けをする為に生み出された。
ファロムは、ドースをダニールの娘と認識している。「産む」のと、「生む」の違いをよく認識していないからだ。それというのも、ロボットとなじみが深かった為に、人間と機械に明確な線引きが出来ていないからだ。また、新しい知識として「産む」のは女だとインプットされている。これが、ファロムがダニールを母と呼ぶ理由の一因になっている。
もちろんダニールは、産んだのではない。と否定はしていたのだが、言葉は覚えたら使いたがるもので、やがてダニールも修正するのを諦めたようだった。
「彼女は、そう、いい子だったよ」
長い歴史を持つ、トランターを政治的中心とした銀河帝国は、その平和に対する高慢な安心感から徐々に衰退して行った。モラルは失われ、新しい技術開発はなされなくなった。そして中央集権が終わりを迎え、地方が己の領土を広げる為に無法時代を迎える事になる。
しかし、それをあらかじめ予想していた人間が居た。ハリ・セルダンだ。
数学者であった彼は、新しい学問である心理歴史学を完成させて、無法時代をたった一世紀で終わらせ、人類の終焉を回避する方を生み出した。そのおかげで、トランターは打ち捨てられたが、辺境の地にあったターミナスが新しい政治の中心になっているし、技術革新や各貿易もなりたっている。
一世紀前、まだ若く心理歴史学を考案していたセルダンの護衛任務をまかされたのは、他ならぬドースだった。彼女は、様々なトラブルに巻き込まれつつも、彼をひたすら守った。そしてセルダンと恋に落ち、結婚し養子を迎えて、やがてハリを守ってその生涯を終えた。
「私は宮廷から追い出されていたし、またその頃は外惑星に居たから、破壊された彼女を修理する事は出来なかった」
しかし、彼女は仕合せだったと思う。何十年と愛するものと側で暮らせたのだ。ダニールは、もし自分が選ぶ事が出来たなら、大切な人を生涯守り、その人の為に果てたいと思った。
だが、ファロムはというと、
「やっぱり人間って疫病神ね」
とそう言った。トランターには絶対行かないわよ。と、念までおされて、ダニールは苦笑した。

拍手[0回]

「walk〜」のほうじゃなくてすいません。アシモフ短編。クレオン幼少期。
しかし主人公は兄。(笑)


*******


「君に穿つ釘」


荘厳な宮殿で、場違いに明るい少女の笑い声が響く。王立図書館から借りて来た、厚ぼったい本を小脇に抱えた少年は、開け離された木製の扉から、部屋を覗き込んだ。
「姉さん。なにをやっているんだい」
そう呼ばれて、少女は涙眼でこちらを振り向く。たおやかな金髪が、シルクのようにその肩からこぼれる。美しい装飾がなされた子供部屋で、彼女は一枚の絵のようだと少年は思った。
「ああ。ランバート。帰って来ていたのね。お帰りなさい。ねぇ、これを見て」
少女は部屋のある方向を指し示すと、堪えきれないようにくすくすと忍び笑いをもらした。ランバートは、指された方向を見る。———なんか居る。
せっかく、少女によって作られた絵画のような空間が、ただそれだけで台無しになるような、ゲテモノが居る。少年は、額に皺を作ると、
「何やってんだ。馬鹿」
と、それに話し掛けた。

「あら、酷いんじゃない?こんなに、可愛い子に向かって」
彼の姉———フレデリカはそういって、部屋の中央でぽかんとしている子供の肩に手を置いた。そう、まさにその子供が問題なのだ。
茶色がかった堅い髪には、丹念に櫛が入れられ、白いブラウスの襟には、フリルや薔薇の刺繍が入っている。薄いピンク色のドレスにはレースやスパンコールがちりばめられ、背中には大きなリボンが付いている。どこからどう見ても、可愛い女の子である。確かにそれが、女の子ならば。
しかし残念な事に、子供はこの三兄弟の末っ子であり、名前をロデリックといい、そして正真正銘の男の子であった。
ランバートは片方の眉をつり上げると容赦なく怒鳴った。
「お前は一体何者だ。言ってみろ!」
幼いロデリックは、その声の大きさに驚いたのと同時に、叱られたと思って泣きそうな顔をした。ぐずつく弟に対し、ランバートはさらにイライラを募らせる。
「この大馬鹿もの! それでも第二皇子か。ああ、そうだ…。お前はこのトランターの皇子なんだぞ。身の程を知れ!」
「そんなに、怒る事無いじゃない。ロロが可哀想よ」
たまらなく、フレデリカが中に割って入った。
姉さんはいつも弟の見方をする。自分は間違った事は言っていないのに…。ランバートは、すっかりうつむいてしまった弟を睨んだ。
「ランバートもう、いいでしょう? ロロを泣かせたら、姉さん承知しませんよ。それに、こんなのちょっとした侍女のお遊びじゃない」
フレデリカがそう言うと、ランバートは耳聡く、聞き返した。
「侍女がやったのか? 初めて聞いたぞ」
フレデリカは、ああ。そう言えば言ってなかったわね。というと、それでどうした。というような顔をした。しかし、ランバートは少し眉根を寄せて、
「誰がやったんだ?」
「アンよ」
ふん。と、言うとランバートは思考の海に沈み込んだ。
「アン…だとしたら、家柄と職場の引き抜きからして、あいつか…」
誰にともなくつぶやく兄に、ロデリックはまたいつ怒鳴られるかと、びくついた様子でそれを見ている。
しばらく、思考の糸をたぐらせていると、彼なりの結論を見出したらしい。ランバートは姉に後で取りにくるからと、重たい本を手渡す。そして弟に、醜いからとっとと着替えろと言うと、足早に部屋を後にした。

拍手[0回]

彼が向かった先は、アンの所ではなく、個人の事務室だった。
「おお、皇子。よくこんな狭い所に、まいられました。ささ、どうぞ」
けして狭くもない部屋で、角張った顔の大臣がイスから立ち上がる。そばにあるソファを薦めた。これに「いや、いい」とランバートは言うと、子供に似つかわしくないするどい眼で大臣を見据えた。
「あれはどういうことだ?」
「はて、あれとはどういうことでございましょう?」
大臣はえらの張った顔に鷲鼻だったが、いつも笑顔を絶やさないせいで無骨なイメージはない。だが、本当の意味で破顔したことなど、一度も無いという事をランバートは知っている。
「ロデリックの事だ。下手にしらを切ろうと思うな」
「いえいえ、申し訳ありません。ますますもってわかりませんなぁ」
「アンを使って、弟に女物の服を着せただろう。父の指示ではないはずだ」
「なんとユニークな発想でしょう。さて、お考えを拝聴賜りたく存じ上げます」
立ち上がった大人と、13歳の少年では身長差が開きすぎている。しかし、ランバートは懸命に背筋を伸ばし、対峙する。
第二皇子というのは、極めてデリケートな位置だ。皇帝にはなれないが、無下にも出来ない。しかし兄が居なくなれば、次の主君に置き換わりえる。だからこそ、国の父としての王に、対比させるための女装。男性としての自己喪失。今のうちから、お前は余計なことをするな。お前には何も出来ないと言う刷り込みであり、性格成形。
「以上がお前の策略だとおもうが…」
ランバートは冷ややかに視線を投げる。大臣の眼はつぶっているのか、開けているのか分からない。そして、はなはだ恐れ入ったと言うように、
「おお、第一皇子。そのような考え、私など一小役人にはまったく思いもよりませんでした」
と、逆に皇子の賢さと成長ぶりに感動を覚えたと言わんばかりである。
流石に、認めないか。ランバートはこれ以上の会話が不毛だと感じ、
「アンをクビにするなよ」
と言い残して部屋を去った。

さて、ランバート皇子が出て行ったので大臣は、気兼ねなくどっかりとイスに体重を預けた。そんなせせこましい事はしないでも、次の王はこの俺だ。ということか。宮廷内では暗に、第一皇子派と第二皇子派が形成されつつある。この大臣は第一皇子派の筆頭であった。あわよくば取り入り、宰相に推してもらうつもりで居る。どうせ、今の王には何も出来まい。
(ふん。まだ10歳そこそこのガキが)
宮廷内では、誰に聞かれるとも限らない。大臣は心の中で悪態を付いた。いつ第二皇子派が行動を起こすとも限らない。それを抑えて皇子を守っているのは、ひとえに自分の存在だと考えているからだ。
だが大臣は、頭の良い王も長生きは出来まい。と唇の端をつり上げた。

拍手[0回]

≪ Back  │HOME│  Next ≫

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]
忍者ブログ [PR]