トレさんが悪魔のように書かれてますが、原作を見ればファロムが彼の目的に
反した存在だと言うのがよく分かります。
見方の違い。ってことで、読んでくれると良いかな。
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食堂でダニールにつかまったファロムは、むっつりと下を向いた。
トレヴィズ。ゴラン・トレヴィズ!
忘れるものか。思い出すだけで忌々しい!
少女は、小さな体の内からふつふつと込み上げる怒りを感じていた。
ファロムはトレヴィズらと、宇宙船に乗って色々な惑星を旅した。いままで野外に出る事が無かった彼女に取って、そのどれもが新鮮な体験だった。だが、はじめて出会った楽器をすばらしく演奏してみても、彼はただがなるだけ。そして、ファロムが精神感応という特殊能力の片鱗を見せた時のあの冷たい態度と言ったらなかった。
もと居た惑星に帰りたい!そう思って、宇宙船のコンソールを乗っ取り、操縦を操ろうとしたが、彼の妨害によってあえなく失敗に終わった。
そんな絶望的な状況で、ついに発見された地球。彼らの最終目的地。だが、そこは放射能汚染によって完全に死滅していた。
しかし、トレヴィズは諦めなかった。彼は地球が奇異である最大の特徴、巨大衛星「月」に眼をつける。出向いた先には、彼らのコミュニティからは想像を超えたテクノロジーによって作られた、地下都市。そこで彼らを迎えたのは、神話と化したはずの2万年前のロボットだった。
ダニールは、後継者を捜していた。人工生命体が、銀河帝国にちらばる10の15乗の人間を管理する事に、限界を感じ始めていたからだ。しかし、後継人にふさわしい人材が居なかった。寿命の短い地球発生の人類に長い未来を託す事は出来ない。
だがついに、ダニールは惑星ソラリアの中にその希望を見つけたのだ。
地球の文明とかけ離れ、かつてスペーサーと呼ばれた彼らは、独自の進化を遂げた。肉体改造を施して、長い寿命を持ち、精神感応によって物を遠隔操作する。その気になれば、人の心をのぞいたり、操る事も出来るのだ。
彼らならば、長い眼で人類を保護し、彼らが間違った道を歩もうとしたら修正を施すこともできる。それこそ、ダニールが長い年月をかけてたどって来た仕事を任せる事が可能であった。
その為には、今までの膨大な人類の歴史やダニールの仕事を覚えてもらわなければならない。トレヴィズによって連れてこられた幼い少女は、恣意的な運命によってダニールと引き合わされたのだ。
一方、ファロムにはもう寄る所が無かった。船内に居た女性は優しかったが、もう一分一秒でも、嫌な船長なんかと一緒にはいたくなかったし、幼い頃からロボットとは慣れ親しんでいたのだ。これから彼と二人で暮らす事になっても、ファロムには何の異存もなかった。
もう、何も変わらなくていい。
今のままが、十分幸せ。
固く握った拳を胸にあて、ぎゅっと下を向くファロムに、ダニールは、自分では彼女を説得するのは無理だと悟った。
「分かった。わたしが変な事を言って悪かったね」
ぎゅっと抱きしめると、彼女の耳元でそういった。
「大丈夫だから」
そういうと、ファロムのはりつめた緊張が解ける。彼女はにっこりと、魅力的な顔で笑うと、
「ママ好きよ」
そう言った。
ダニールは、食堂を見回す。
「ファロム。なにか、甘いものでも食べようか…」
「うん!」
ファロムはするりとイスにすわると、キッチンに立つダニールの後ろ姿をキラキラした眼で見つめる。その視線を感じながらダニールは、私は甘やかす事しか出来ないな。と、そう思った。はなから、育児には向いていないのかもしれない。
それは、ロボットだから、原則に縛られ人間に対して強く出られないと言う事と、やはり自分は機械仕掛けのロボットだという負い目があるからかもしれない。
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