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リーベン
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リーベンによる漫画とか映画とか小説の感想や創作。日々のつれづれ。
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青い。
まずそう思った。
眼前に広がった青色が、空のいろだと理解するのにしばらくかかった。
高い空にはもくもくと綿をちぎったような白い雲が緩慢に流れている。ファロムが今まで行って来た、どの惑星とも感じが違う。どこがどうとは言えないが。
青い芝に、からっとした日差しがふりそそぐ。ふと、ファロムの後ろで声が聞こえた。あわてて近くに生えている太い木の幹に隠れた。

「あ、ママだ」
ファロムの方に向かって、ダニールともうひとり人間が歩いてくる。強い日差しを避けるように木陰に入ると、男はほっと息を吐いた。ファロムはまじまじとその男を観察した。茶色の少しウェーブがかった髪。目尻と口元には皺。歳の頃は分からなかったが、きっとおじさんと呼ばれるくらいの年齢なんだろうな。とファロムはなんとなく思った。
こっちが、じろじろと見ていても、彼はまったくこちらに気づく様子は無い。しかしそれは当たり前なんだと、ファロムは思い出した。これはデータであり過去のダニールの記憶なんだから。
とうのダニールは、今より表情がぎこちなく、ロボットらしい風である。青白い顔に、色の薄い髪をなでつけている。つるっとした、能のような顔で男を見ている。と、男がここちよい低い声で喋り始めた。
「地球に帰りたくないな…」
「いえ、あなたを無事に地球まで送り届けるのが、私の任務です」
木の幹に体を預け、腰を下ろした男に向かって、直立不動のままダニールは答えた。
「なんだ。追い出そうって言うんだな」
男が、歳に似合わずすねたような声を出す。
「そんなことは、言っておりません」
広い草原には、他に動くものの影は見えない。ふいに訪れた沈黙に、遠慮がちに風が通り過ぎた。
「地球に帰ったら、お前には会えなくなる」
と男はすねたように言った。ダニールは、ぽかんとしたような顔になる。
「なんだ。寂しいとか言ってくれないのか」
男は、そんなダニールの顔を見た。男の位置ではダニールの顔は影になってよく見えない。そばに寄るように指示すると、ようやくダニールは腰を落ち着けた。
「寂しいというような、人間のような感情は持っていません」
「うん。お前はいつもそういって、ごまかすんだよなぁ」
「ロボットは人間をごまかしたりしません」
ダニールはロボット全般を代表するように答えた。
「それに、あなたには地球でやるべき仕事が残っているじゃないですか」
「地球人による、宇宙進出ね…さてうまくいくか。気の長い話しだ」
「ファストルフ博士が、今回の事件解決の功績に政府と掛け合ってくれるとおっしゃっていましたが。なにか不安なんでしょうか?」

木立に隠れているファロムには、なにがなんだかよくわからない。それでもなんとなく会話を聞いていると、ここはダニールの故郷の惑星オーロラであり、男は何かの事件解決の為に地球から呼ばれた刑事であり、その事件解決のパートナーはダニールだという事が分かった。
私には、すぐに地球に帰りたいとばかり思っていました。とダニールは男に言った。
「だからこそ、すばやく宇宙船の手配もいたしましたのに…」
鎖の付いた時計を取り出して、何とはなしに時間を確かめた。青い空色の石で美しく装飾された銀時計だ。と、男が時計に気がついた。
「あ、それ」
ダニールは男に時計をさしだした。男はそれを受け取ると、大切に使っているみたいだな。とつぶやいた。
「ええ。人から贈り物を貰ったのは、はじめてです」
「自分で買った訳じゃないんだがな。最初の事件の、功績を認められて貰ったものだから、お前のものでもある訳だ」
そうはいっても、わざとダニールの瞳と同じ、空色の石を使ったものを選んだということは、初めからダニールへの感謝の気持ちを込めた贈り物として考えていたという理由があるのだが。
「いえ、あなたから貰った事が重要なのです」
「はは。嬉しいな」
男は軽快に笑った。ダニールは首を傾げる。
「やっぱり、心はあるじゃないか」
と、男は言った。そして立ち上がると、「桜の木」と言った。
ダニールは、ああ。と相づちを打つ。
「桜の木の約束がありましたね」

「ずっと先でまた会えるか」

振り向いた男に、ダニールは初めて本当に優しい笑顔をみせた。
「これから地球人が宇宙進出して、スペーサーも地球産まれも境界はなくなって、ロボットとも共に生きられるようになって、そしたら迎えに行くよ。大切な友達をさ」
「…はい」
雲が動き、日に当たってダニールの手元で、青い石が光った。

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