今までが急がしすぎたせいもあるだろう。頭の中が伽藍として、ベイリは真っ暗な彼方を見つめる。野外に出るだけでも、卒倒ものだったのに、こんなに穏やかな気持ちで真空を見つめられるようになったのは、どうしてだろう。
柔らかい光が船室を照らす。壁にもたれかかると、宇宙船のエンジン音がかすかに聞こえる気がする。今までの地球の科学力では考えられないほど高度な宇宙船だ。
ファストルフ博士の助力もあり、ベイリは今や地球代表として、未開拓の惑星に向かっている。こんな未来など、どうやって想像出来ただろうか。あいつと出会った頃だって、早く任務が終わればいいと、そればかり考えて来たのに。
そうだ、出会ったあの頃…。
自動扉が開き、息子のベンが部屋にやって来た。開拓地についての、いつもの打ち合わせだろう。そんな息子に、ぼんやり聞いてみる。
「今何時だ?」
「え?えっと…」
ベンは時計を探そうと部屋を見渡し、すぐに腕時計の存在を思い出して袖をめくった。「地球時間では…。」と答え始めた息子に、ベイリはすぐにもういい。と遮った。
別に時間が知りたかった訳ではない。
きっと、あいつは間を置かず、きっかり答えるんだろう。そばにいないパートナーの事を思い、ベイリは苦笑した。
自分の何十年かの人生のたった数日でしかない邂逅が、こんなに愛おしいとは…。
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