ランバートは、すぐに姉の元に戻らず、中庭に向かった。
天を仰げば、青い空が広がる。銀幕で覆われた惑星トランターでは、珍しい光景だ。トランター産まれであれば、天候に左右されるこの環境を羨むより哀れむ。でも、ランバートはこの光景が好きだった。いや、大人は変だとさえ思う。きっと、子供の時には風の匂いや土の手触りや、雨の冷たさが好きだったはずだ。
と、視界の端に慌てたような侍女の様子と、彼女が追いかける者が眼に入った。大人でも、子供のように無邪気に振る舞う女。舞踊る亜麻色の髪。見知った、しかし意図的には出会いたくない顔。
見つからないように、ランバートは静かに中庭を後にした。
化け物が巣食う宮廷内では、頭が良くなければ、生き残れない。しかし、逆に頭が良過ぎても邪魔だと殺される。一番いいのは、そうなる前にドロップアウトしてしまう事だ。彼の母親のように。
前皇帝は、まだ40そこそこで崩御した。この時勢、暗殺だろうという噂がまことしやかに流れた。従兄弟であった、ランバートの父親が後を継いだのだったが、悪かったのは前皇帝の妃が、彼の母親の妹だった。
姉妹中がさほどよくなかったという、ちょっとした逸話に尾ひれが付き、皇后の地位が妬ましくて姉が地位を奪い取ったという噂が出た。もちろん根も葉もない話しだ。しかし、どうしたものか、妃の耳に入ってしまった。それから、妃は心を病んでしまった。
だから、ランバートが物心ついた時には、母親は…
姉の部屋にいくと、フレデリカはランバートが置いて行った古い本と格闘していた。弟の姿を見つけると、諦めがついたように本を閉じて手渡した。
「よくこんなものを読みたいと思うわね。」
「どんな本も、一応読んでみる価値はあるんだよ。姉さん」
そういうと、ランバートは笑った。その姿を見つめると、
「ようやく笑ったわね」
と、フレデリカは、ほっとしたような顔をした。
「何をして来たかは知らないけれど、あんまり思い詰めちゃ駄目よ。あなたも、ちゃあんと私の大切な弟なんだから」
「わかってるよ」
そう言って、ランバートはまた微笑んだ。彼が、無条件で安心出来るのは、空の下と姉の側だけだ。姉に全幅の信頼を預けるのは、母親の愛情の代わりなのかもしれない。それとも、本当に好きなのかもしれない。自分の気持ちはまだどっちとも付かないし、決着をつけようとも思っていない。
と、そこにそろそろと弟がやって来た。しっかりと、男の子の格好で。しかし、兄にかける言葉が見つからず、結局口ごもってしまった。彼としては、人に勝手に衣装をあてがわれて、それを見た兄に怒られたわけで、自分がどうして怒られたのかよく理解していない。
だが今度は、ランバートは幼い弟にできるだけ柔らかい口調で、話し掛けた。
「馬鹿は馬鹿でいろ」
相変わらず、弟はきょとんとしている。馬鹿にされたか、また、怒られたんだろうか。
そんな姿をみて、やっぱり自分がしっかりしないとな。と兄は堅く決意した。
おわり
読んでくださりありがとうございます。
しかし、もうここまで来ると、オリジナル小説だよ!
原作の影も形も無い。
SF要素が皆無すぎる。(笑)
兄さんが書きやすくてなんだろうな。と思ったら、みどりちゃんと似たような扱いだった。
いや、そんなばかな…。
しかし、この姉兄がこのあと死ぬのかと思うと涙を禁じ得ない。
そして弟も50歳で殺されんのな。うわーん。アシモフ先生の馬鹿!
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