衛星、月。ファロムはここで、一日の大半、様々な事を勉強する。
だが、なんといっても遊びたい盛りだ。ぱたぱたと軽い足音を立てながら、ファロムは駆け回った。ここに来て、色々な場所を案内されたが、それでもなにか面白いものは無いかと、探検せずにはいられない。
「勝手に変な所にいってはいけないよ。迷子になったらどうする…」
ダニールは走っていって、少女を捕まえる。小脇に抱えられた少女は、鬼ごっこのあっけない幕切れに、ぷーとふくれる。
「ママは過保護だー」
ダニールは、それこそ監視カメラと意識をリンクする事が出来る。だから、本当は口やかましい事を言うは必要ないのだ。物理的に眼の届かない所に居ても、彼女の身柄を、安全に確保する事は可能だから。
それでも、つい過保護になってしまうのは生来の気質ゆえか? わがままな人間を数多く世話をして来たという経験からだろうか。
いや、それとも親とはこういうものだろうか?
ロボットの自分には分からない。機械人形と人間を比べる事は出来ないが、それでも、ダニールには家族と言うものがよく分からなかった。
生みの親と呼べるサートン博士は、地球に行って殺されてしまった。同形の弟も、ろくな交流が無いまま破壊された。ダニールの共同制作者のファストルフ博士には、娘が居たが、すでに自立して家に寄らなかったし、引き取り手の後継人である、マダム・グレディアは育児にあまり関心を寄せていなかった。
そのかわりに、ダニールの先輩にあたるジスカルドが面倒を見ていたのだが。
実の親との交流とは、どういうものなのだろうか?使用人ではなく、ダニールが親として扱われたいと願うのは、きっと彼女が自分の事を「ママ」と、親しく呼ぶからだろう。
***
白いワンピースがめくれている。
「へんな格好でだらけてはいけないよ。女の子なんだから」
晩飯の準備ができたと伝えにダニールは、ファロムに与えられた個室に行くと、おもちゃやら、ビジフィルムやらが散乱している中で、ごろごろと転がっている子供にそう言った。
「ぷいぷいぷー」
ファロムは言葉にならない抗議をした。
「じゃあ、女の子じゃないもん。男の子だもん」
「男の子なんだったら、我慢強くならないと行けないよ」
ぺちゃくちゃ言い訳してはならないし、食べものを残しちゃいけない。それにそれに…とダニールの説教が続く。ファロムは、うんざりして
「じゃあ、やっぱり女の子で良い!」
「はい。じゃあしとやかにしようね」
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