薄暗い部屋に、男女二人の姿がある。ベイリとグレディアだ。
ジェンダー殺人事件も幕を開け、もう命を狙われる事も無いとロボットからの警護を解いている。それでも庭の巡回などを命令しているが、夜半を過ぎたグレディア邸には、ベイリとグレディアの、お互いが出す音しかしない。
地球人とスペーサーという違いがあれども、生物学的にはほとんど変わらない。ぬくもりも感覚も。ベイリはやさしくグレディアを抱き寄せた。
彼女と行為を重ねるのは、きっとお互い報われない思いを抱いているからなんだろう。そうベイリは感じた。グレディアの柔らかい肌のうちには、やはり亡き夫の、ジェンダーの面影があった。
ジェンダー。ダニールと同形のロボット。抑圧された夫婦生活から、男性不信にまで陥った彼女を救ったのは、人間ではなかった。グレディアは、ジェンダーになら、自分でも何か与える事が出来たかもしれないと言った。しかし、実際はどうだ。彼は人間のつまらない軋轢に揉まれて、産まれてから1年も立たないうちに破壊されてしまった。人がロボットに与えられるものなど何も無かったではないか。我々は緩慢に、機械仕掛けの奴隷が与えてくれるものを享受しているだけ。対等になどなるわけもない。
そう。自分も知っているのだ。あの空虚な空色の瞳を。
きっと二人とも同じ影を追い求めている。
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