突然与えられた任務は、地球人類の名誉をかけた殺人事件。それが成功してみると今度はどうだ?わざわざ他の惑星までおもむき、事件解決だと?惑星外交官か俺は。惑星オーロラに来てから、幾日も立つと、ベイリにまた気持ちの悪い不安が押し寄せて来た。
たった一人の人間のその肩に、惑星の存亡が預けられている。無言の重圧は、そうでなくとも孤独な地球人の神経を蝕む。
世界、いや銀河最高峰のヒューマノイド破壊事件。容疑者はベイリと懇意にしているハン・ファストルフ博士。
関係者に話を聞いて回り、現場にも向かった。被害者の遺体も検査した。しかし、事件への糸口はようとしてつかめない。
「パートナー・イライジャ。あなたなら大丈夫ですよ」
ファストルフ邸で、厚いクッションのイスに座りながらも、イライラと神経を尖らせるベイリに、ダニールは声をかける。ロボットゆえの気配りだろうか?そう考えると腹が立ち、差し出された紅茶にも目もくれず、ベイリは「うるさい」と一蹴する。
「今までは、ただ失敗しなかっただけだ」
ありきたりのおべっかなど要らない。これは、努力したよく頑張った。ではすまされないのだ。結果が出なければ、銀河系からの地球人類の評価。最高峰の科学者の頭脳。無くすものは、ちっぽけな一人の人間の命よりはるかに重い。焦りから、つい余計な言葉がこぼれる。
「お前は、人がそう言って欲しい事をそのまましゃべっているんだろう?R・ダニール?そうとも、R、R、R!お前はロボットなんだからな。どうせお前には人の心なんて分らない」
言ってしまってから、どす黒い本心に血の気が引いた。なんて馬鹿な八つ当たりだ。その身を案じ、彼の為なら危険に身を投じる事もいとわないとした、あの雨の夜は何だったんだ。
うつむいたまま視線をさまよわせるベイリに、掛けられたダニールの声は揺らがなかった。
「貴方がおっしゃるならそうかもしれませんね。パートナー・イライジャ。私はロボットです。ですが、ロボットとしてプログラムされている事でなくとも、私は貴方を信じている事に変わりありません」
貴方が望むままに私は存在するんですよ。そうかけられた声に、返す言葉が見つからない。スクラップになってもかまわないとまで言い出すダニールに、ようやくその顔を見据える。貼付けたような眉目秀麗な顔がこちらを見据える。
私は人間の為にある、ロボットなんですよ。
そういうダニールの目は確かにガラス玉の様だった。
[0回]
PR