この宰相の態度の変化には、クレオンに少なからず衝撃を与えた。
「デマーゼル。なんの事を言っている?」
それに対し、デマーゼルは答えない。何度も何度でも繰り返す、人間との関わり合い。同じ時を生きられない宿命。寄せては返す波のように、追いかけても届かない。いつか弾けて消えてしまうから。
だから、デマーゼルは人との特別な関係を望まなかった。ロボットの三原則に従う彼は、人間の死を目の当たりにしてしまえば、それこそ機能停止に陥るほどの強烈な影響を受ける。だが、一個人ではなく、全体を見てしまえば、その人の生も死も割り切ってしまえる。
自分だけは変わらず、周りだけが加速的に老いて死んでしまう。そんな割り切れない世界を2万年も生きているのだ。
だがそんなことを知り得ない皇帝は、これを別の解釈で受け止めたようだ。
「それは余もまた、いく年か続いた不幸な皇帝と同じく、すぐに暗殺によって死ぬだろうと言う事か?」
「いえ、違います、陛下。寿命であっても、きっと私ほどには生きてこられないでしょう」
これには皇帝も吹き出さずにはいられなかった。自分よりも歳を取っているはずの人間が、このような戯れ言を言うのだから。しかし、デマーゼルは涼しい青い瞳で、
「私には、やらなければならない事が沢山あるのです、陛下。それこそいくら寿命があっても足りない使命が。もうあなたと遊んでいる時間は無くなりました…」
「はん。よく言うわ。もうよい。好きにしろ。だがな、お前より先に余は死なんぞ」
「いいえ。もう、生きて貴方とお会いする事はありますまい」
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