エピローグ
「こら、ダニール。走り回らないの。人ごみにまぎれたら大変でしょ」
「はーい。ママ」
それでも短い手足をぱたぱたと振り回しながら、子供は素早くへ走っていってしまった。
「あっこら待ちなさい」
大人の脚力に子供が適う筈もない。ようやく捕まえると、
「あら、大変ね」
と、路肩で出店をやっているおばさんが声をかけてきた。
子供は母親の腕の中でしばらくもがくと、あきらめてつまらなさそうに口を尖らせた。
「丁度一番騒がしい年頃でしょう?」
「あはは。そうですね。でも充実しています」
「それはいいことだわ。えっと、坊や?お嬢ちゃん?」
「…どっちに見えます?」
「えっと、お嬢ちゃんかしら」
「当たりです!」
「お嬢ちゃんだって」
母親に手を引かれる子供は言った。
「でもぼくは、本当はどっちでもないんでしょ?」
「そうよ。もうちょっと大きくなったら選ばせてあげる。どっちでもいいし、どっちにならなくてもいいし…」
子供は、まだぼんやりとした顔で母親を見つめている。
「そんな顔しない。めったにない外で遊ぶのも良いけど、ちゃんと勉強もしなさいよ。ほら、ここがトランター。そのうちあんたが人類の守護者になるんだからね…」
おわり
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