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リーベン
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リーベンによる漫画とか映画とか小説の感想や創作。日々のつれづれ。
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2.

それは、知っているけど知らない場所だった。
もしくは知っているけど知らない振りをしているのかもしれない。
ファロムの視界いっぱいに直線と曲線が混じった、ひどく幾何学的な町並みが続いていた。街には、派手な格好をした大勢の人が歩いている。地下で育ち、今は月で母と二人暮らしをしているファロムにとって、大勢の人間の中に取り残されるのは初めての体験だった。
人々は、すぐ側に人が居ても素知らぬ風に通り過ぎてしまう。それはまるで、川の水が流れるがごとく、無関心と言う流水に飲み込まれてしまったかのようだ。没個性な表情のない人間が諾々と通り過ぎる。
「あ…あの…」
どこに行けばいいのかわからない。そもそも、どうしてこんな所に居るのかもわからない。
そうだ。ママは、ママはどこにいるんだろう。
ママは絶対にファロムを一人になんてしない筈だ。
でも、目の前に居る人々に声をかけるのがどうしても怖い。
そうこうしているうちに、有象無象の一人がファロムに気がついたようだ。
「あんなところにソラリアから逃げて来た宇宙人が居るぞ」
そのとたん、ばっと周囲の人間の眼がファロムへと集められた。
(ほんとうにほんとうなのかしら)
(みろよ。耳の後ろにでっぱりがあるぜ。なんでも脳みそが肥大化してるらしい)
(体の作りも違うんだってな)
(ものを動かしたり、人の心を操ったり出来るって言うぜ)
(こわいなぁ。こわいなぁ)
(なんでこんな所にいるのかなぁ。元の巣へ帰ってもらいたいよなぁ)
(出て来なければ良いのに)
(気持ちが悪い)
やめてよ。
やめて、やめて、やめて。
両手で耳を塞いでも、声は容赦なくファロムに届いてくる。
「あんたたちなんてキライよ!」
ついに膝をついてファロムが咆哮した。とたん音が止んだ。
おそるおそる顔を上げると、取り巻いていた人間は誰もいなくなって、代わりにいいようのない音が流れて来た。
そして、目の前にピエロがぽつんと立っていた。
ピエロはにぃっと笑うと、


「きみは、復讐したいのか」


視界がいきなり開けた。ファロムを覗き込む青白い顔が心配したような、それでもほっとしたような顔をした。
「ファロム…大丈夫かい」
ファロムはゆっくりと起き上がった。ここは自分の部屋だ。あんな訳の分からない空間ではない…。ああ、そうだ。じゃあ、あれは。
「だいぶうなされていたようだけど、悪い夢でも見たんだね」
ダニールの冷たい手が、ファロムの額をなでる。
寝間着を着替えるかい?それともシャワーでも浴びる?
そう聞かれても仕方のない程、背中にはじっとり寝汗をかいていた。

***

男女と老人と道化のメロディが部屋に広がる。ミュールがその正体を隠し、道化として潜伏調査をしていた時の記録だ。ミュールが密かに録画していたものだろうか?当事者の証言による再構築で作り上げられただけではない妙なリアリティがそこにはあった。
結局、ファロムはファウンデーションのことなど二の次で、幾日もむさぼるようにミュール関連の記事を探していた。そして偶然、この記録を見つけた。
言いようのない、音楽が空間を満たす。
仲睦まじい、この男女はそのうち結婚することになる。と、後の記録では書いてある。
女性に向けられた道化師の笑顔の意味は伝わる事はない。
「あなたは何を考えていたの?」
ファロムは、聞こえる筈のない過去に向かって語りかけた。

***

二人分の晩ご飯は、香しい匂いが鼻孔をつき、ほくほくと湯気が上がっておいしそうだった。成長期の娘は、いつもだったらすぐかぶりつくというのに手を膝においたままだ。やはりなにかおかしい。しかし、ダニールはあえて聞くようなまねをしなかった。
「ママは、本当は…」
ぽつりとファロムがつぶやいた。ダニールは辛抱強く次の言葉を待った。
「ロボットなんだよね」
「そうだよ」
「わたしは、ファウンデーションとかの人たちと、体つきが違うんだよね」
「そうだよ。大体の機能は違わないけれど、長寿や特殊能力や性差のことを言ってるならそうだね」
「……それって、その…」
ファロムはうつむいて、もごもごと口ごもってしまう。
「………違うっていうのは、駄目なのかなぁ」
とっさに意味を汲み取れずに、ダニールは沈黙した。だが、
「ファロム」
気がつけば、ダニールはファロムを抱きしめていた。
幼い体が、すっぽりと両腕に収まる。この行動が何に帰依するものなのか、ダニールには分らなかった。三原則により、人に一番安心感を与える行動をとっているのかもしれない。ただ、ダニールは、
「そんなことはないよ」
どうしてか、絞り出すような声しか出て来なかった。
「そんなことはないんだ。ファロム」


その夜、ファロムは久しぶりにダニールと一緒の布団で寝た。それは意外にも、ダニールからの申し入れだった。
「最近、夢の中にアマディロ博士が出て来て、分解して解読すると脅かすんだ。怖いので、ファロムの独り立ちには申しわけなんだけど、一緒に寝てくれないかな」
「だれ、その人?まあいいけど。もうママは私が居ないと駄目なんだからなぁ」
「出来の悪いママですいません」
「あはは。そんな真面目にあやまんないでよ」
もし今度ピエロが出て来たらどうしようか。
とりあえず、今は幸せだから何にも答えが浮かばない。もうちょっと勉強をしたら、今いろいろ理不尽だと思う事も、その原因も分るかもしれない。
そうしたら、私なりの返事が出来るかもしれない。


でも、わたしはそれから悪夢を見ていない。

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