最初は二人だけの。そしてやがて三人が映った沢山の写真。リリーに手渡された物だけではない。リビングに掛けてあるものまで、数々の場面で撮られたであろうスネイプ一家の写真がそこにあった。写真の中では、スネイプは眉をしかめた仏頂面だが、リリーもハリーも蔓延の笑みを浮かべている。
リビングは間取りは変わらないくせに、その様子は全くと言っていいほど様変わりしていた。
一人暮らしで、どこか薄暗くじとっとした部屋は明るい壁紙にとってかわり、中央に置かれたオークの大きいテーブルの上には、花瓶に白い花がちょこんと生けてあった。
スネイプは椅子を引くと、リリーによって山と詰まれたアルバムに、骨張った手を這わせた。なんだか知らないが、全く別の人生を送っていたスネイプの過去がそこにあった。
そして、ハリーは『生き延びた男の子』ではなくなっていた。
「名前を言ってはいけないあの人は、そもそも存在しないのか…」
「僕知ってるよ」
突然横からハリーが顔を出した。やたら懐いてくるハリーに、スネイプは良い知れない想いがこみ上げて来た。
しかし、この子は、本来なら自分を殺したいほど憎んでいるはずだ…。
やがてハリーは、この本を読んだんじゃない?と一冊の本を持って来た。
表紙の大雑把な水彩で描かれた絵からして、子供向けに書かれたおとぎ話だろう。しかし、児童書であるにも関わらず、やたら厚ぼったい本だ。
「名前を言ってはいけない人。ヴォルデモード卿。ほら、この本の一番の敵だよ」
すっごく強いんだ。とハリーは言った。自分の身にかかって来なければ、不幸や危険はただの胸躍る冒険潭にしかすぎない。それはまさに、ホグワーツでハリー・ポッターを取り巻く連中のようだった。
なんだか、出来すぎている。
嫌な物を全て排除した結果に出来た、偽りだらけの楽園。
自分は本来なら…。
「天気もいいし、外で食べましょうか」
バスケットを用意したリリーがそう言った。
「外ったってどこさ?」
「そうね、気持ちのいい丘か湖の側が良いかもね」
「それなら僕良い所を知ってる」
ハリーとリリーの間であっという間に、今日の予定が立ってしまったようだ。
何も言わないスネイプに、乗り気じゃないのかと心配したリリーが、
「せっかく、ハリーが我が家にいるんだから、一緒じゃないとつまんないじゃない」
といってスネイプに笑いかけた。
「我が輩も行くのか?」
「やっぱりダメ?」
「いや、ダメと言うのではなくて…」
どう言っていいか分からずに、スネイプは顔をしかめた。それをみてリリーはコロコロと、
「あら、あなたは幸せになるのが苦手な人ね」
と笑った。
絶対、これは自分の頭の中で作られた絵空事だ。死の淵の一瞬の夢だ。
だが、それでも、つかの間の間この幸せを噛み締めていて良いだろうか。
すると、何年もそうする事を忘れていた筈の機能が活動し始めた。
どうして良いか分からない。熱いものが、頬を伝う。
息子と妻が自分を呼ぶ声がする。
二人の緑色の眼がやさしく、自分を捕らえた。
2008/08/31おわり
[1回]
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